「戦争をしない国 明仁天皇メッセージ」の一読を(矢部宏治著・小学館)

「戦争をしない国 明仁天皇メッセージ」の一読を(矢部宏治著・小学館)

 著者の矢部宏治さんは、この本を書いた理由について「あとがき」で「私たち日本人が誇りにし、何より守りたいと思っている『戦争をしない国』(平和国家)という基本的な国のかたち」が、なぜ安倍政権というたったひとつの政権によって破壊されようとしているのか、その大きな疑問を解くために、これまで「平和国家日本」に関してもっとも深い思索をめぐらしてこられた明仁天皇の言葉を一度くわしくたどってみたいと思ったと記されています。
 Ⅰ「I shall be Emperor」では我々日本人が憲法で保障されている職業選択の自由や言論の自由を有しない、普通の日本人であった経験のない明仁天皇の15歳の体験からはじまり、Ⅱ「慰霊の旅沖縄」では最初の訪問時に火炎ビンを投げつけられたにもかかわらずその後に本土から見捨てられた沖縄の地を10度も訪問されて戦没者の慰霊をするとともに「琉歌」(8・8・8・5で読む琉球王朝以来の伝統的な歌の形式)までつくっておられる事実、Ⅲ「国民の苦しみと共に」では原爆被災の広島・長崎への訪問、水俣病患者や東日本大震災の被害者に対する労り、Ⅳ「近隣諸国へのメッセージ」では中国・韓国に対する謝罪の言葉と深い思いいれ、サイパン、パラオへの慰霊のための訪問、Ⅴ「戦争をしない国」では国旗をあげて国歌を斉唱させることについて「強制になるということではないことが望ましいですね」とのお言葉の紹介。2015年初頭には「本年は終戦から70年という節目の年に当たります」「この機会に満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び今後の日本のあり方を考えていくことが今極めて大切なことだと思っています」と述べられています。一連の15年戦争の侵略性を否定し、平和憲法について何ひとつ議論しないまま世界中でアメリカ軍の指揮の下「戦争ができる国」に進めようとしている安倍首相にも、この年頭感想を真剣にかみしめてほしいものだと思います。
 巻末に付録として「世界はなぜ戦争を止められないのか」国連憲章と集団的自衛権がついており、ダレスの国連憲章51条に隠された法的トリックにふれられ一読に値します。
 豊富な写真と明仁天皇の歌などが記載されて、すばらしい内容となっており、平和国家をめざす若者にとっても是非目をとおしてほしいと思い、中・高校生の孫たちにも一読をすすめた次第です。

弁護士 稲田 堅太郎