The法円坂Vol.65 原発避難者に対する責任 

原発避難者に対する責任

 2011年3月、東日本大震災と福島第一原発事故という大きな出来事がありました。とりわけ福島の原発事故は、これまでのエネルギー政策、私たちの生き方そのものを根本的に再検討しなければならないような重大な事故でした。
 しかし、事故から6年半を経た現在、事故の教訓は生かされているでしょうか。現在行われている政策は被害を過少評価して東京電力や政府の責任を小さなものにするものとしか思えません。
 全国に散らばった原発避難者たちは、東京電力と国を被告として、30を超える裁判所で次々と裁判を起こしました。原告は全国併せると1万3000人を超えています。ここ関西でも、京都地裁、大阪地裁、神戸地裁に、併せて500人ほどの避難者が裁判を起こしています。
 これらの集団訴訟の判決が、2017年に3つ言い渡されました。3月17日前橋地裁、9月22日千葉地裁、10月10日福島地裁です。前橋地裁判決、福島地裁判決は、東京電力だけでなく、国にも法的責任があることを認めました。千葉地裁判決も、最終的に国の責任は否定しましたが、最大の焦点であった津波を予見できたかどうかという点については、「遅くとも平成18年までに、福島第一原発の敷地高を超える津波の発生を予見することができた」との判断を示しました。
 これらの3つの判決に共通するのは、福島原発事故を発生させるような津波の発生を国は予見できたと明確に判断したことです。今後も続々と同様の裁判の判決が言い渡されます。原発事故に対する国の責任が認められるかどうかは、今後の判決の重要なポイントとなりますので、ご注目下さい。
 ところで、経済成長のためには原発はどうしても必要だ、今回の事故はたまたま起こっただけで、1つの事故があっただけで原発の有用性を否定するのはおかしいという意見もたくさん聞かれます。
 この議論の前提として、今回の原発事故の被害はどれくらいだったのかということを共有することが大事だと思います。福島県の健康調査により、甲状腺がんの発生が増えていることが分かっています。健康被害は別としても、避難者の置かれている状況は、なかなか知られていません。強制的に避難を余儀なくされた方だけでなく、小さい子どもがいるなどの事情で被ばくを避けるために自らの意思で避難した方に対しても、あまりにも補償が不十分だと思います。裁判ではこの点も争点となっています。
 今後の判決にも是非ご注目ください。

弁護士 中島 宏治