The法円坂vol.67 キャッシュレス考

キャッシュレス考

弁護士 乕田喜代隆

 消費税増税に伴い、キャッシュレス決済でのポイント還元事業がスタートしました。この制度、クレジットカード等を持たない人々は恩恵を受けないし、障害者にとってもカード使用が難しい人もいます。また、中小業者支援にはなっていません。

 同志社大の浜矩子教授は、キャッシュレスの問題点を指摘しています。

 ① 電子現金には匿名性がなくて追跡可能性がある。電子通貨はそこを管理している者に全てが見えている。 ② 物理的現金を所持できなくなる可能性がある。データの移転のみで済まされる。 ③ 電子化が進めば比例して、我々はアホになっていく。資産管理能力は落ちるし、知的感性、創造性感性が低下していく。

 情報漏洩等の安全性への不安がある中、リクナビが内定辞退率を販売していたことや、Tポイントが裁判所の令状なくして会員の個人情報を捜査機関に流していたことが判明しました。知らないままに個人データが共有されたり、他に利用される事態が起こっています。

 消費行動だけでなく、今日、様々な形や性格、種類の巨大なビッグデータから容易に個人を特定できる可能性があります。権力はもちろん管理者も含め、恣意的に情報を取得することができるのです。私は悪いことはしていないから、別に構わないというわけにはいきません。

 さらに、マイナンバーカードの使用にポイント付与する案が出ています。政府がキャッシュレス化を声高に叫ぶのは、マイナンバーカードを作らせ国民の行動を把握するためかと穿ってしまいます。進まないのは、国民にメリットはなく統制されるだけと感じているからでしょう。ポイントで釣って、カードに慣れさせようとしているのでしょうか。

 慣らされることは感性を失うことと結びつきます。一人ひとりがしっかり考えることなく、物事に慣らされていく社会にあって、消費行動が全て把握されるのは、「いつか来た道」をすすむことになるのかと思ってしまいます。

 権力が国民の行動を把握することによる権利侵害の危険性や、キャッシュレス化やデジタルデバイド(情報格差)等によって格差が出ていることに対しどのような対策をするのか、しっかり考えることが求められていると思います。