The法円坂vol.69 監視する資本主義

監視する資本主義             

弁護士 乕田喜代隆

スマホは便利だ。AIの進化であらゆるサービスが受けられる。しかし、それはプラットフォーマーという営利企業に個人の一挙手一投足が集まっているということでもある。IT企業は携帯やパソコンを通じてデータを集め、顧客の行動を予測し商品化して販売する。情報サイトのリクナビが、就活生の記録を分析し内定辞退率を本人の同意なく採用企業に販売していたことがあった。個人情報が商品化されて、人生に大きな影響を及ぼす現実が目の前にある。

 デジタル化とは、あらゆる情報を二進法(0と1)で数字に置き換え、0と1を+と-にして、電子回路で情報を世界に発信できる。瞬時に大量のデータが行き来する高度な情報社会に変わっていく。データ保管場所はどこでもよい。新しいデータ資本主義帝国が世界を席巻する。資本は、生産性、効率性を求めてオートマチックにビッグデータを自己の利益のために使う。

 そして、情報がデジタル化されていく過程は見えない。不可視性は、経営情報の漏洩、窃取、メール詐欺、サイバー攻撃、予期せぬIT基盤の故障、妨害攻撃など、セキュリティ上の脅威を増大させている。

 政府はデジタル庁を設置しデジタル化をいう。中身は全国規模のクラウド移行、自治体のシステムの統一、標準化 業務効率化、マイナンバーカードの普及、健康保険証との一体化、運転免許証との一体化 教育のデジタル化等々多岐にわたる。個人情報を一元管理をする支配の発想である。

 個人情報をデジタル化してマイナンバーにつなげて国がアクセスできるようにする。何のことはない、国がプラットフォーマーになって、国民の行動を予測し支配するのである。

 中国で、コロナ感染の濃厚接触者の個人情報が流出したことがあったが、そこには、住所氏名はもちろんのこと、身長や体重から行動記録(立寄先から日時場所まですべて)などあらゆる情報が記録されていたという。行政のデジタル化は個人のプロファイルが処理される過程がわからず、個人は主体でなく監視される対象となる。

 知らない間に個人が解析されて、その一つ一つが商品化され消費されていく。必要な人間かスコアリングされ、分類された箱に詰められていく。上級国民か下級国民か分断が行われる。文書破棄や改ざんなど何でもやる政府ならやるだろう。中国の監視社会は未来の日本と思う。

 重要なのは、情報の自己コントロール権を保証することである。高度情報社会で、この権利が保障されなければ、個人は現代版奴隷となってしまう。デジタル主権を確立することが大事である。まず、個人情報保護委員会を政府から独立した組織にして、個人情報保護体制を確立をすべきである。