「生前退位」で考えること

「生前退位」で考えること
       
 昨夏から天皇の生前退位が議論になっています。天皇に生前退位の自由がないからです。天皇は象徴であって国事行為のみをするという特別な地位を与えられた一人で構成される機関です。
 天皇、皇族には基本的人権の保証がありません。天皇には苗字も、戸籍もありません。養子は認められず、女子は天皇になれません。天皇皇太子の成人は18才で、皇族男子の結婚には皇室会議の議決が必要で、参政権もありません。
 慰霊の旅や被災地等の訪問は、憲法が定めている国事行為でなく、国事行為以外の公的行為は認められるのか議論があります。主権者に反して勝手な意思をもって行動されては象徴の意味がなくなるからでしょう。しかし、「象徴としての行為」として認めてきました。
 感情も意思もある生身の人間を象徴として、国民と異なる地位を与えた象徴天皇制の矛盾です。
 象徴天皇制は天皇制であるかぎり、旧憲法の天皇制と完全な断絶はできていません。万世一系の思想も一つです。天皇はこれに抗して象徴天皇のあり方を模索し、憲法99条(憲法尊重擁護義務)を実践されてきた方です。天皇は平和や人間の平等に強い思いをお持ちで、今回のお言葉は単に公務を軽減するものではなく、象徴天皇制を問うものでしょう。象徴天皇に苦悩と負担を強いている日本のありかたはいかがなものでしょうか。

弁護士 乕田 喜代隆