The法円坂vol.70 「人権尊重のためのガイドライン」を読み解く

「人権尊重のためのガイドライン」を読み解く

 弁護士 中島宏治

 

 昨今、企業活動のグローバル化の進展等にともない、企業の人権への視点と取組みに注目が集まっています。

 2011年の国連指導原則(ラギー原則)をはじめ、わが国においても、2020年10月に「行動計画」が策定され、2022年9月に「人権尊重のためのガイドライン」(以下「人権尊重ガイドライン」といいます)が策定されました。

 今後は、企業活動においてこれまで以上に「人権への取組み」が収益や投資、企業評価につながっていくことが予想されます。

 今回は、2022年9月に策定された「人権尊重のためのガイドライン」についてご紹介いたします。SDGsの取組みとの関連性もありますので、是非ご確認ください。

1 人権尊重ガイドラインとは

 国連指導原則(ラギー原則)などの「ビジネスと人権」における国際スタンダードをふまえ、日本で事業を行う企業に対し、企業に求められる人権尊重の取り組みを具体的かつわかりやすく解説して、その理解を深め、その取組みを促進することにあります。経済産業省が音頭を取って検討委員会を立ち上げ、短期間で策定したガイドラインとなっています。

2 人権尊重ガイドラインの全体像

 人権尊重の取組みの三本柱が提示されています。

<人権方針の策定>

 人権方針の策定については、企業のトップを含む経営陣で承認されていること、企業内 外の専門的な知識・知見を参照した上で作成されていること等の5つの要件を満たすことが求められています。

<人権デューデリジェンス(人権DD)>

 人権DDの第一歩は、企業が関与しまたは関与し得る人権への負の影響を特定し、評価することです。例えば、サプライヤーから調達する製品・サービスの価格が不当に廉価ではないかという視点にも留意する必要があるとのコメントがあります。

 その上で、優先順位をつけて防止・軽減の取組みをして、取組みの実効性の評価を行い対処方法を明示するというPDCAが示されています。

<人権の負の影響にかかる救済>

 ガイドラインでは、企業に対し負の影響の防止・軽減にとどまらず、被害者に対する救済の実施や救済の実施への協力まで定められています。内部通報制度のような苦情救済メカニズムも推奨されています。

3 おわりに

  今後、取引先から「人権方針は策定されていますか」「人権DDはされていますか」と言った話が出てくることになると思います。一度「人権尊重ガイドライン」を読んでみませんか。